私たちの取り組み
排泄ケア
神経疾患で起こる膀胱直腸障害の失禁にはオムツ以外に対策がない、オムツに助けられるということもありますが、よく調べると「オシッコと言ってくれない」、「寝たきりだ」、「人手が足りない」というだけの理由で「いらないオムツ」をつけることも当たり前になっているようです。
当院では平成17年から「オムツはずしの実践と取り組み」をしています。骨盤内臓(膀胱・直腸・性器)は脳・脊髄を中枢とする骨盤自律神経(副交感・交感)で支配されています。この神経系が麻痺すると神経因性膀胱直腸(性機能)障害と呼ばれ、自覚する、しないにかかわらず排尿・排便(性機能)障害を同時に起こすというわけです。脳卒中、パーキンソン病、認知症や脊髄傷病など高齢者に発生する神経因性膀胱直腸障害だけでなく、膀胱炎、過活動膀胱、前立腺肥大症など未治療の泌尿器科疾患でオムツがはずせないことも多いのです。これらの原因がないのにオムツで済まされる理由は、①介護力(マンパワー・夜間の介護力・医学常識と知識)の不足、②水分の過剰摂取が原因で尿量が増えます。それらは介護者の誤解や知識不足が原因の事もあり、自分たちが勉強することで解決できます。
不必要なオムツは、
- 高齢者の自立を阻害し、あきらめ、依存、寝たきり症候群をつくる。
- 尿路感染症(オムツ膀胱炎)や皮膚炎(オムツかぶれ)を起こす。
- 汚物処理が院内感染の原因となる
- 莫大な労力と費用の無駄をまねく
などの弊害をもたらします。もちろん、すべての高齢者からオムツがはずせるわけではありませんが、(1)膀胱直腸機能がまともであれば、(2)患者さんとコミュニケーションがとれれば、(3)おしっこを待たせなければ、(4)夜間の介護力さえ間に合えば、効率的なオムツはずしができるに違いない、少なくとも、はずせるオムツ、はずせないオムツを判別することはできると、我々は希望を持って、オムツはずしに情熱を傾けています。人には希望が必要です。病気や障害があっても心が生きていれば希望が生まれます。私たちは生活上の身体介護だけでなく心の介護にも努め、これまで社会のために尽くしてこられたお年寄りのためにお役に立ちたいと願って取り組んでいます。
排泄ケアスタッフ紹介
小久保 史恵 (師長)北九州古賀病院
病棟活動の様子
●尿量監視モニター「ゆりりん」を使って
脳卒中片麻痺や老年期認知症などの神経系の異常で介護が必要な人の中には、オムツがはずせない方が大勢います。尿が貯まったことを知らせる膀胱の感覚が尿意ですが、脳卒中や認知症の人は尿意が理解できなかったり、伝えられずにトイレで排尿させてもらう機会を失います。尿のたまっていることを言ってくれなければ介護(排尿誘導)のしようがないので、オムツに排尿するのも仕方のないことです。
病院では膀胱容量を確かめるために超音波診断装置がありますが、日常生活の現場で手軽に用いることができませんし、正確でもありません。しかし通産省NEDOが高齢者の尿失禁を減らすために民間企業と共同で10数年前開発に取り組んだ携帯型膀胱容量計測装置(タケシバ電気(株)製「ゆりりん」)も実用化され、徐々に普及してきました。
3-4cm四方の超音波発振端子を恥骨直上の下腹部に固定し、尿がたまって膨らんでくる膀胱内尿をタバコケースサイズの本体で測定し尿量に積算して知らせる装置です。膀胱の働きが正常か異常かは、平均排尿量(一日の尿量を排尿回数で除す)と平均残尿量(排尿後ゆりりんで計測した残尿量の平均)を調べれば大まかに分かります。この超小型の超音波膀胱容量測定器「ゆりりん」は膀胱容量と残尿量を排泄介護の現場で判断できる利器と思ってよいでしょう。今まで不可能とされた膀胱機能を推量し、高齢者のオムツはずしのために貢献する日が来ていることを確信しています。
私どもは膀胱機能が正常か異常か、どの程度異常で、それが神経疾患によるのか、泌尿器疾患によるのかなどを、現場で判定できる北九州病院方式オムツチェック法(一日間のオムツ濡れ状況で平均排尿量を、「ゆりりん」やブラダスキャンで求めた平均残尿量で計算する膀胱機能の評価法)で確認するようにしています。膀胱機能が正常なら尿意や便意が無いことはありえません。一生かけて身に付けた尿意や便意が分らないのではなく、言えないだけ、伝えないだけ、介護者が黙らせているだけの悲劇もありえるのです。つまり排尿ケアに不可欠の(1)膀胱機能と(2)尿意を伝える能力と(3)排尿姿勢保持能力の三要素を総合した「オムツ外しスコア」を評価して取り組みます。スコアの高い方には最大の努力を、見込みがない方で燃え尽きる必要はありません。